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名古屋地方裁判所 平成4年(行ウ)44号 判決

原告

尾嵜〓志

被告

名古屋市教育委員会

右争訟事務受任者教育長

剱持一郎

右訴訟代理人弁護士

鈴木匡

同右

大場民男

右訴訟復代理人弁護士

鈴木雅雄

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。

1  教務主任は、学校教育法施行規則二二条の三及び「名古屋市立小学校、中学校及び養護学校の校務を分担する主任等に関する規則」(昭和五三年名古屋市教育委員会規則第二五号)の規定に基づき、名古屋市立小学校、名古屋市立中学校及び名古屋市立養護学校(以下「市立学校」という。)に置かれ、校長の監督を受け、教育計画の立案その他の業務に関する事項について連絡調整及び指導、助言に当たるものであり、校長の推薦により被告が当該市立学校の教諭の中から命ずるものとされている。

2  市立学校の校長が教務主任候補者の推薦を行う際の提出書類は、推薦書のみで、被告の学校指導部教職員課長あて親展で提出すべきものとされ、推薦者の数は一校三名以内とされている。

3  推薦書の様式は、別紙のとおりであり、教務主任候補者の氏名、生年月日、最終学歴、健康状況、家族状況、係累状況、研究歴、校外役職歴、担任学年、担当教科、校務分掌、歴任校、住所等を記載する欄があり、その下に、「校長所見」欄として三行分の空欄が設けられており、更にその下には、校長がその者を教務主任候補者として推薦する旨の文言及び校長が署名押印すべき欄が設けられている。

4  推薦書に所見欄が設けられている趣旨は、候補者の所属する学校の校長が、その職務の性質上、候補者本人の教職実績や人物を具体的に知り、かつ、その教務主任としての適性について適切に評価し得る立場にあることから、被告において教務主任選考の資料とするため、その所見を求めるものであり、具体的には、候補者の日常の教育活動、勤務状況、教育研究・教育実践の成果等を基にして、教職実績及び人物について教務主任としての適性判断の参考となるべき意見が記載される。

5  被告においては、推薦書が提出された候補者の中から、教務主任に任命すべき者の選考審査を開始することとなるが、推薦書は、選考事務の重要な資料となり、また、人事異動の資料ともなる。なお、選考に当たっては、担当者が候補者と面接をし、また、一般の人事考課の結果も判断資料として用いられる。

二  そこで、まず、本件所見欄に一号の非公開情報が記録されているかどうかについて検討する。

本件において公開を求められているのは本件推薦書中の本件所見欄のみであり、同欄が三行で記載する様式になっていること、記載事項が個別具体的に定められていないことからして、同欄の記載事項及び記載方法は、推薦に係る候補者の教職実績及び人物について校長が自らの裁量により決定できる性質のものというべきである。そうすると、同欄には校長の裁量により抽象的な記載をすることも認められているというべきであり、同欄の記載内容から常に特定の個人が識別され得るとはいえない。したがって、個々の所見欄について特定の個人が識別され得る情報が記録されているとすべき個別具体的な主張立証のない本件においては、本件所見欄は、いずれも、一号の非公開情報が記録されているとはいえない。

三  次に、本件所見欄に六号の非公開情報が記録されているかどうかについて検討する。

1  まず、推薦書は、市立学校の校長が当該学校の教諭の中から特定の者を教務主任候補者として推薦する際に被告に提出される選考資料であって、その所見欄は、推薦に係る候補者について校長の意見を記載するものであり、教務主任の選考事務の資料となると共に、人事異動の資料ともされるものである。したがって、本件所見欄に記載されている情報は、職員の身分取扱い(事務事業)に関する情報といえる。

2  そこで、次に、本件所見欄に記載されている情報を公開することにより、右のような人事行政(事務事業)の目的の達成が損われるおそれがあるかどうかについて検討する。

一4において判示したように、所見欄は、候補者の所属する学校の校長が、その職務の性質上、候補者本人の教職実績や人物を具体的に知り、かつ、その教務主任としての適性について適切に評価し得る立場にあることから、被告において教務主任選考の資料とするため、その所見の記載を求めるものであるから、本来、校長において、自己が職務上恒常的に接している候補者の教務主任としての適性について、自らの良心に従い、自己が日頃認識しているところを率直に記載して初めて最良の選考資料となり得るものである。したがって、所見欄は、校長が、自己の個人的利害関係を離れ、また、恣意的判断を排して、公正に記載すべきものではあるが、あくまで、当該校長個人の所見を率直に記載すべきものである。

本件推薦書は平成三年一〇月一日現在の名古屋市中川区内の名古屋市立小学校の教務主任に係るものに限られているが、仮に本件所見欄が公開されるとすれば、今後、校長は、推薦書の所見欄が関係職員等の目に触れ、場合によっては、その記載の当否について批判を受けることを前提として、同欄の記載をせざるを得なくなり、その結果、教務主任選考のために必要な意見ないし評価を率直に記載することを差し控え、ひいては、候補者の教職実績及び人物について適切な評価をし得る者の意見が選考事務担当者に的確に伝えられない事態が生ずるおそれがあるものといわなければならない(ちなみに、前示のように、現在、推薦書は親展扱いの文書とされており、市立学校の校長は教務主任選考事務の担当者以外の者がその内容を見ることはないとの前提の下に所見欄の記載をすべきものとされている。)。

したがって、本件所見欄に記録されている情報を公開することにより、今後の教務主任の任命やこれに関連する人事異動の適正を期することができなくなるおそれがあるというべきであるから、右情報の公開により人事行政(職員の身分取扱い)の目的の達成が損われるおそれがあると認められる。

3  右によれば、本件所見欄には、六号の非公開情報が記録されているから、本件推薦書は本件条例九条一項の非公開文書に該当することになる。

四  なお、原告は、被告が示した本件処分の理由は、いずれも実施機関である被告の主観が述べられているに過ぎず、本件処分には適法な理由の付記がされていない旨主張する。

本件条例七条四項本文は、実施機関が公開の請求に係る公文書を公開をしない旨の決定をする場合には、その通知書に非公開の理由を付記しなければならない旨を規定しているところ、これは、非公開の理由の有無についての実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、非公開の理由を請求者に知らせることによって、その不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。したがって、非公開の決定に付記すべき理由としては、公開請求者において本件条例九条各号所定の非公開事由のどれに該当するのかをその根拠と共に了知し得るものでなければならないと解されるところ(最高裁平成四年行ツ第四八号平成四年一二月一〇日第一小法廷判決・判例時報一四五三号一一六頁参照)、前記第二の一4の事実によれば、本件処分に付された理由には、本件所見欄の性格が簡潔に示され、これが職員の身分取扱いに関する情報であって、公開することにより同種の人事行政の目的の達成が損われるおそれがある旨が記載されているのであるから、右に判示した観点に照らし、非公開決定に付記すべき理由として十分であるというべきである。

したがって、原告の右主張は採用することができない。

第四 総括

以上において判示したところによると、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 後藤博 入江猛)

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